月次の試算表が届く。数ページにわたって勘定科目と数字が並んでいる。どこを見ればいいのか分からないまま、とりあえず眺めて、閉じる。多くの社長がそうしています。そして数ヶ月後には、届いても開かなくなります。
原因は社長の勉強不足ではありません。「全部見ようとする」から続かないのです。最初に見る数字は3つだけでいい。残りは、必要になったときに見れば足ります。
1つ目:現預金 ── 会社の体温
貸借対照表のいちばん上、現金・預金の合計です。ここが会社の体温にあたります。売上や利益がどれだけ立派に見えても、現預金が尽きれば会社は止まります。逆に、赤字の月が続いても、現預金があるうちは立て直せます。
目安は月商の1ヶ月分を下回っていないかどうか。2〜3ヶ月分あれば、落ち着いて手を打てます。1ヶ月分を切っていたら、それは赤信号ではなく黄信号です。すぐ倒れるわけではありませんが、次の一手を考える時期に来ています。まずは毎月、金額をそのまま覚えてください。「先月より増えたか、減ったか」が即答できるようになれば、それだけで数字が見えている社長です。
現預金を見るときのチェック手順
- 先月の残高と比べて増減を確認する(金額と、月商の何ヶ月分かの両方)
- 減っていたら、理由が「売掛金の入金ズレ」か「在庫の積み増し」か「返済」かを一言で言えるか確かめる
- 理由が言えない減少は、次の月に持ち越さず、その場で経理担当か税理士に聞く
2つ目:売上 ── 比較相手は前年同月
売上高そのものより、「前年の同じ月と比べてどうか」を見ます。予算との比較は予算の立て方しだいで景色がいくらでも変わりますが、前年同月は動かせません。季節の波も吸収してくれる、いちばん誠実な比較相手です。
前年比95%なら、その5%分の理由をひとつ言えるか。「あの得意先の発注が減った」「単価を下げた」。理由が言えれば手が打てます。言えなければ、そこが次に調べる場所です。逆に前年比110%のときも、油断は禁物です。単発の大口受注で膨らんでいるだけなら、来月には反動で落ち込みます。増えた理由も、減った理由と同じ重さで確かめてください。
3つ目:粗利 ── 値引きの影響が最初に出る場所
売上から仕入や外注費を引いた残りが粗利です。ここから人件費も家賃も借入の返済も出ていきます。売上が同じでも、粗利率が1%下がるとどうなるか。月商1,000万円の会社なら、年間で120万円が消えます。人をひとり雇えたはずの金額です。
値引きをした月は、売上より先に粗利に表れます。売上が保てているのに粗利率が下がっていたら、それは「安売りで維持した売上」です。試算表の上では、この2つはまったく別の状態です。粗利率は業種によって水準が大きく違うので、他社と比べる意味はあまりありません。見るべきは自社の過去12ヶ月の推移です。1〜2ヶ月の上下は誤差として流し、3ヶ月続けて下がっているときだけ、原価や値引きの運用を疑ってください。
売上だけ見ていた会社の話
ある製造業の会社の例です(特定を避けるため、数字は改変しています)。売上は3年連続で前年を上回り、社長は「うちは順調だ」と考えていました。ところが現預金は、月商2ヶ月分あったものが1年半かけてじわじわと1ヶ月分を切る手前まで減っていた。売上を伸ばすために入金サイトの長い大口取引を増やし、材料の先行仕入も膨らんでいたからです。売上という1つの数字だけを見ていると、この変化には気づけません。現預金・売上・粗利を並べて見ていれば、「売上は増えているのに現預金が減り続けている」という食い違いが、半年早く目に入っていたはずです。
この会社は、銀行との関係が良好なうちに運転資金を手当てして事なきを得ました。もし気づくのがあと半年遅れていたら、資金繰りの交渉はずっと苦しいものになっていたでしょう。数字を見る習慣の価値は、何かを言い当てることではなく、気づく時期を早めることにあります。
続けるコツは、日と順番を固定すること
3つの数字を見る習慣は、意志の力ではなく仕組みで続けます。おすすめは次の3点です。
- 見る日を固定する ── 試算表が届いた日ではなく「毎月15日」のように日付で決める。届き待ちにすると、遅れた月から習慣が途切れます
- 順番を固定する ── 必ず現預金→売上→粗利の順。順番が同じだと、いつもと違う動きに違和感として気づけます
- 1行メモを残す ── 手帳でもスマホでも、「現預金◯◯万円、前月比マイナス◯◯万円、理由は賞与支給」程度の1行で十分。3ヶ月分たまると、自分の会社の季節パターンが見えてきます
3つに慣れると、次が見えてくる
現預金・売上・粗利。この3つを毎月同じ順番で見るだけなら、5分で終わります。数ヶ月続けると、不思議と次の数字が気になり出します。「粗利は減っていないのに、なぜ現預金が減るのか」──そう思えたら、売掛金と在庫を見るタイミングが来た合図です。売掛金が積み上がっているなら回収条件を、在庫が膨らんでいるなら発注のタイミングを、それぞれ担当者と一度洗い直してみてください。
試算表は、全部読むための資料ではありません。3つの数字から会社に質問するための資料です。まずは今月の試算表で、3つだけ確かめてみてください。