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答えを渡さないコンサルタントの価値

答えを渡すと、実行されない。問いと材料で社長自身の決断を引き出す、伴走型コンサルティングの考え方を書きました。

「先生、答えを教えてください」。伴走の現場で、何度も言われてきた言葉です。そして私は、なるべく答えを渡さないようにしています。意地悪をしているのではありません。答えを渡した瞬間に、その答えが実行されなくなるからです。

他人の答えは、他人事になる

コンサルタントが「この価格に上げましょう」と言い、社長が「わかりました」と返す。この瞬間、値上げは社長の決断ではなく、コンサルタントの指示になります。うまくいかなかったとき、心のどこかで「言われた通りにやっただけだ」と思える構造ができてしまう。そう思える逃げ道があると、人は粘れません。

人は、自分で決めたことしか本気で実行しません。逆に言えば、自分の口から出た結論なら、多少の逆風でもやり抜きます。だから伴走者の仕事は、答えを言うことではなく、社長が自分の答えに辿り着くまでの道筋を設計することです。

問いは、材料とセットで

ただし、「どうしたいですか」と聞くだけなら誰でもできます。それは丸投げであって、コーチングではありません。

問いには材料を添えます。「値上げした場合と、しない場合。3年後の粗利をそれぞれ数字にしてきました。この2枚を見て、社長はどちらの会社にしたいですか」。数字という材料があって初めて、問いは決断を生みます。

材料の作り方にもコツがあります。選択肢は2〜3個に絞ること。4つ以上並べると、人は比較検討ではなく先送りを選びます。それぞれの選択肢には、必ず数字を1つ紐づけること。「値上げすれば粗利率が2ポイント改善する」「値上げしなければ、現状の原価上昇分だけ粗利が年間80万円減る」というように、数字がなければ選択肢は印象論のままで終わります。決めるのは社長。決められるだけの材料を揃えるのが伴走者。この分担は、どちらが欠けても成り立ちません。材料のない問いは無責任ですし、問いのない材料はただの資料です。

自分で決めた社長は、修正も自分でできる

ある小売業の会社の例です(特定を避けるため、数字は改変しています)。不採算店舗を閉めるかどうかで、社長は2年近く迷っていました。私は「閉めましょう」とは言わず、店舗ごとの粗利と人件費を並べた一枚の表と、「この店を今日ゼロから出店するとしたら、出店しますか」という問いだけを渡しました。社長は1ヶ月考えて、自分の口で「閉める」と決めました。

興味深いのはその後です。閉店の実務では、取引先への説明や従業員の配置転換など、想定外のことが次々に起きました。それでも社長は止まりませんでした。自分で決めたからです。さらに半年後、別の店舗についても、今度は私に相談する前に同じ表を自分で作り、判断していました。答えを渡さない伴走の本当の成果は、最初の決断そのものではなく、決め方が社長の中に残ることです。

社長に壁打ち相手がいない理由

社内で社長が「実は迷っている」と言える相手は、ほとんどいません。役員に弱みを見せれば不安が広がる。家族に話せば心配が先に立つ。同業の集まりでは、本音の数字までは出せない。社長の孤独は性格の問題ではなく、会社という構造の問題です。

だから、外に壁打ち相手を持つ。顧問でも、先輩経営者でも、勉強会の仲間でも構いません。声に出して話すだけで、考えは半分整理されます。相手に求めるのは正解ではなく、いい問いを返してくれることです。

壁打ち相手を選ぶときの目安は、「答えをすぐくれるかどうか」で判断してみてください。相談してすぐに「こうすべきです」と断言してくる相手は、心地よい反面、あなたの決断力を育てません。逆に、話を聞いたうえで「それで、社長はどっちがいいと思いますか」と聞き返してくる相手は、最初は物足りなく感じても、半年後には確実に頼れる存在になっています。

相手がいなければ、紙に3つ書く

すぐに壁打ち相手が見つからないなら、紙で代用する方法があります。迷っている案件について、次の3つを書き出すだけです。

  • 選択肢を2〜3個、一行ずつ書く(「値上げする」「しない」「一部商品だけ上げる」)
  • それぞれの下に、数字を1つ添える(増える金額、減る金額、かかる期間のどれか)
  • 最後に「1年後、どちらを選ばなかったことを後悔しそうか」と自分に問う

書くのに30分もかかりません。頭の中で堂々巡りしていた迷いは、紙に並べた瞬間、たいてい形を変えます。「実は選択肢は2つではなく、決める時期を迷っていただけだった」と気づくこともあります。これは、伴走者が問いと材料でやっていることの、一人でできる簡易版です。

1年後に差になる

答えをもらった社長は、その日は満足して帰ります。自分で決めた社長は、次の日から動きます。この違いは小さく見えて、1年経つと会社の差になって表れます。もし身近に「答えをくれない相談相手」がいたら、それは案外、大事にしたほうがいい相手かもしれません。

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