決算では黒字。なのに通帳の残高は増えない。むしろ月末が近づくたびに冷や汗をかく。「儲かっているはずなのに、金がないのはなぜだ」——これは社長から最も多く聞く問いのひとつです。決算書は税理士が作ってくれますが、日々のお金の動きをつかむ感覚は、社長自身が持つしかありません。
利益とお金は、別々に動いている
利益は、売上から費用を引いた計算上の数字です。お金は、実際に手元を出入りした現金。この二つは同じ動きをしません。売上を計上した時点ではまだ入金されていないことが多く、経費を払った時点ではもう現金が出ています。帳簿の上では黒字でも、現金の出入りではマイナス、という月は珍しくありません。利益は稼いだ記録、お金は今ある現実。この違いを頭のどこかに置いておくだけで、数字の読み方が変わります。
お金が消える3つの通り道
利益と現金のズレは、だいたい3か所で起きます。
- 売掛金:売上は立ったが、まだ入金されていないお金。回収が60日先の取引先が増えるほど、帳簿の利益は現金にならないまま眠ります。売上が伸びている月ほど、この眠るお金も膨らみます。
- 在庫:仕入れた分の代金はいずれ払わなければならないのに、売れるまでは利益にも現金にもなりません。倉庫に積まれた商品は、現金が形を変えて止まっている状態です。良かれと思ってまとめ買いした在庫が、資金繰りを締めつけることもあります。
- 借入の返済:返済のうち元金の部分は費用になりません。だから利益には現れないのに、現金は確実に減っていきます。ここを見落とすと、黒字なのに資金繰りが苦しい、の典型にはまります。
売上が伸びるほど苦しくなる、という逆説
ここで多くの社長が驚くのは、「売上が伸びているのに、なぜか手元は苦しくなる」という現象です。原因は運転資金にあります。商品を仕入れて、加工なり販売なりをして、代金を回収するまでの間、会社は自分のお金でその時間差を立て替えています。売上が月100万円のときと月300万円のときでは、この立て替え額もほぼ比例して膨らみます。成長が資金繰りを圧迫するのは経営が下手だからではなく、事業の規模そのものが大きくなった証拠でもあります。だからこそ、売上が伸びている局面ほど、資金の手当てを先回りして考える必要があります。銀行への相談は、苦しくなってからではなく、伸びが見えた時点でするほうが条件は良くなります。
回収と支払い、どちらが先かを紙に書く
資金繰りの体質は、実は難しい分析をしなくても、取引条件を紙に書き出すだけで見えてきます。確認することは3つです。
- 売った代金は、平均して何日後に入ってくるか(回収サイト)
- 仕入れた代金は、平均して何日後に払っているか(支払サイト)
- 仕入れから販売まで、在庫として何日くらい寝かせているか(在庫の回転日数)
回収サイトが支払サイトより長ければ長いほど、会社が立て替えている期間が長いということです。この立て替え期間×1日あたりの売上が、その会社に必要な運転資金の大づかみの目安になります。厳密には仕入や在庫は売値ではなく原価で見るため、この掛け算はやや大きめに出ますが、まずは規模感をつかむ物差しとして十分です。取引先ごとにこの3つの数字を書き出してみると、「この取引先との条件が、資金繰りを重くしている」という原因がはっきり見えることがあります。値下げ交渉より先に、支払い条件の交渉のほうが効く場面は少なくありません。
まず、利益とお金を別の紙で見る
やることは単純です。損益(利益が出ているか)と、資金の動き(現金が増えたか減ったか)を、別々の紙で見る癖をつける。試算表の利益の隣に、「今月、現金はいくら増えたか・減ったか」の一列を並べるだけでいい。多くの社長は利益だけを見て一喜一憂しますが、二つを並べた瞬間、会社の景色が変わります。利益は出ているのに現金が減った月は、その差額がどこへ行ったのか——売掛金か、在庫か、返済か——を追いかける。この差額を自分の言葉で説明できるようになると、資金繰りは勘から読めるものに変わっていきます。
月に一度、5分でいい
この見方は、月に一度、5分あればできます。大掛かりな資金繰り表を組む必要はありません。大切なのは、続けること。試算表を開くたびに現金の増減を一度たしかめる、その小さな習慣を半年も重ねるうちに、決算を待たずに会社のお金の状態が手触りで分かるようになります。銀行から急に資料を求められても慌てない。取引先の支払い条件を見直すべきか、在庫を絞るべきか、打ち手の勘所も見えてくる。数字に強い社長とは、難しい分析ができる人ではなく、自社のお金の動きを自分の言葉で語れる人のことです。
手元の現金が何か月分の支払いをまかなえるか、という目安も一つ持っておくと安心です。月商の1〜2か月分の現金が常に手元にあれば、急な支払いにも慌てずに構えられます。この水準は業種や季節による波でも変わるので、自社にとっての適正水準を、税理士と一緒に確認しておくとよいでしょう。
黒字なのにお金がない、は経営が下手なのではなく、利益とお金の動きが違うだけのこと。まず二つを分けて眺めるところから、静かに始まります。